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真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY

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塩田信之のDSJと神話世界への旅 第1回「悪魔アモンとエジプト神アメン」

悪魔となったアメン

 そんな古代エジプトの最盛期に宗教的中心にいたアメンが、キリスト教の神秘思想によって悪魔となるのはある意味当然の結果と言えます。オシリスの妻で死んだ夫の復活に尽力し、太陽神ホルスの母親でもあるイシスは聖母信仰と結びつきましたが、基本的に唯一神以外に神と呼ばれる存在を許容しないキリスト教がローマの支配とともにエジプトにももたらされると、古い宗教は信仰としては廃れていきました。宗教的建造物や神像は残っているように見えますが、破壊された数も多いのです。

 唯一神を信仰する宗教によって否定された「邪教」の神々は、中東で古くに信仰された唯一神のライバルたちがそうだったように「神の敵対者」として「悪魔」にその姿を変えられていきます。中東で主神とされたバアルやそれに類する豊穣神がバエルあるいはベルゼブブとして悪魔と見なされたことを考えれば、エジプトの主神アメンが悪魔アモンとなったとしてもおかしくありません。ただ、ベルゼブブが魔界の王としてサタンに次ぐ存在と考えられたことに比べると、いわゆる貴族の爵位として公爵のさらに下となる侯爵の地位とされるアモンは扱いが小さいようにも思えます。

 17世紀のイギリス詩人、ジョン・ミルトンが当時の神秘思想を取り入れて多数の悪魔を登場させた『失楽園』にアモンは含まれません(アモンと同一視されることがあるマモンは登場しますが)。また『旧約聖書』の『レビ記』や『列王記(上下)』、『エレミヤ書』などに言及されている生け贄を求める邪教の神モレク(モロク)とそれを信仰する「アモン人(新共同訳ではアンモン人)」については『失楽園』にも記述があることを考えると、悪魔の侯爵アモンが周知される年代がもっと後だったのかもしれません。可能性としては、モレクを信仰したアモン人自体を悪魔と考えたり、モレクと混同されたことも考えられます。

 ともあれ、エジプトのキリスト教化からさらに時代が下った7世紀にエジプトがイスラム教化されたことを考えれば、悪魔化されたことも神殿や神像が破壊されるよりマシといえるかもしれません。偶像崇拝を厳格に禁じる考え方が行き過ぎれば遺跡の破壊に繋がることが現実にあったわけですし、某過激派組織がピラミッドやスフィンクスといった「異教徒の遺跡」を破壊すると声明を出したこともあるわけですから。

 今やエジプト最大の観光資源といえる遺跡やエジプトの神々に宗教的意義が残っているのかの判断も難しいところですが、略称とはいえ女神イシスと同じ名前を持つ集団が遺跡を破壊しようとしているというのも奇妙な符合と思えるのです。


塩田信之(NOBUYUKI SHIODA)

故成沢大輔氏と共に「CB’s PROJECT」を立ち上げ、『真・女神転生のすべて』『デビルサマナー ソウルハッカーズのすべて』など、これまで数多くのメガテン関連の攻略本やファンブックに携わってきたフリーライター。近著は『真・女神転生IV FINAL 公式設定資料集+神話世界への旅』(一迅社)。

※ゲームに関する記述は取材と開発スタッフによる監修に基づいています。歴史・宗教観については諸説あり、ライター個人の解釈に基づいています。

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真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY

対応機種:ニンテンドー3DS
ジャンル:RPG
発売日:2017年10月26日
CERO年齢区分:C(15才以上対象)

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