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真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY

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塩田信之のDSJと神話世界への旅 特別編「ソロモン王と72柱の悪魔たち」

ミルトン『失楽園』からグリモワールへ

 なにせ世界中でもっとも読者の多い『聖書』ですから、後に文学が発達していく上でもよく題材となりました。「キリスト教文学」とも呼ばれる作品は印刷技術が発明される15世紀以前から活発に作られるようになっています。14世紀前半にはダンテの『神曲』が書かれています。「キリスト教文学」から「悪魔文学」がスピンオフするまでにあまり時間はかからなかったようで、14世紀の後半には「ダンテ最初の理解者」とも呼ばれる『デカメロン』で有名なボッカッチョ(ボッカチオ)がギリシア・ローマ神話の神々を系図でまとめた『異教の神々の系譜』を著しています。

 もちろん、こうした文学のルーツは古代ギリシアの叙事詩『イリアス』や『オデッセイア』をはじめとする古典がまずあって、14世紀あるいはもっと早くからイタリアを中心に始まった「ルネサンス」はギリシア・ローマの「古典文化復興」を意味し、ここに紹介している作品群もその流れの上におおむね位置しています。特にミルトンはその傾向が強く、叙事詩としての形式も古典を踏襲したスタイルをとっています。

 16世紀に入るとアリオストの『狂えるオルランド』スペンサー『妖精の女王』といった作品も登場します。真4Fと神話世界への旅 補遺編2「メフィストと悪魔を召喚する魔法使い」で触れたファウスト伝説のイングランドにおける戯曲家作品マーロウの『フォースタス博士』はこの16世紀末頃に書かれたものです。文学作品ではありませんが、1486年には「魔女狩り」の指南書となった『魔女の鉄槌』が出版されていますし、中国に目を向けてみると『西遊記』が広まった頃の「世徳堂本」と呼ばれる本も1592年に発行されていました。今でこそ「ファンタジー」扱いとなる「魔術的世界」がこの時代には現実そのものだったことが窺えます。

 ジョン・ミルトンの叙事詩『失楽園』が書かれたのはこのころで、1667年のことです。天使たちが神に反逆し悪魔へと変わっていく、『聖書』に書かれていない隙間のエピソードを長編にした作品で、今で言うなら二次創作みたいな物語です。上に挙げたキリスト教文学、悪魔文学から有名無名さまざまな天使や悪魔が登場し、自分たちの役割や人間の愚かさについてなど饒舌に語り合う姿が描かれるわけですが、聖書神学的解釈にとどまらずギリシア・ローマ神話と融合させる解釈などが数多く盛り込まれたこの時代における知の集大成といった様相です。必ずしも悪魔を憎むべき存在として描いていないところに物語的魅力があり、天使や悪魔のキャラクター描写等現代に至っても意義深い名作と呼べることは確かでしょう。なお、だいたい同じくらいの頃に、キリスト教の寓意物語として名高いジョン・バニヤンの『天路歴程』も出版されています。

 ソロモン王の72柱悪魔については、ヨーロッパにおける「魔女狩り」が衰退した後の18世紀以降に世に見られるようになる「魔術書(グリモワール)」と呼ばれる類の書物で多く取り上げられました。「青本」などと呼ばれる民衆向けの本も作られて広まったもので、悪魔の召喚も含めた魔術を実践するための手引書といった体裁が多く、「魔女狩り」の背景にもこうした書物の流布が関係したものと思われますが、異端審問が盛んに行われた時期はさすがに表立って所持することは憚られました。

 有名な魔術書の類に『レメゲトン』やその一部とされる『ゴエティア』、『ソロモンの鍵』などがありますが、これらの多くもソロモン王が使ったとされる魔術を扱っています。72柱の悪魔はおおむね同じくらいの時期に書かれたいくつかの魔術書にリストとしてまとめられましたが、書物によって内容が異なりどれが大元かもわかりません。有名な悪魔には『聖書』にも名前が出ているような「由緒ある悪魔」もいますが、それらについても名前以外は外見描写なども含めてバリエーション重視で付け足されたように感じられる要素が多いのも事実です。

 そんな中、魔術書の72柱としては特に高位ではないものの「ベリアル」は『聖書』にも登場しているある意味「由緒正しい」72柱悪魔と言えます。とはいえ『新約聖書』の「コリントの使徒への手紙 二」での登場ですから、『旧約聖書』にも登場しているバアル(バエル)、アモン第1回 悪魔アモンとエジプト神アメン)、アスタロト、アスモデウスあたりと比べると小物感もありますが、『失楽園』ではサタンとも対等に渡り合う長広舌の悪魔として大きな存在感を見せてくれます。

 『メガテン』ではベリアルとペアになっている「ネビロス」についてはどうでしょう。上記魔術書の類に挙げられる72柱としては出てこないのですが、ネビロスと同一視されることがあるナベリウスは72柱に含まれています。ただし、ナベリウスがネビロスの部下と書かれていたり、両者を混同して書かれているなどどうにも足元が定まらない記述しかないのも事実です。「赤伯爵と黒男爵」が印象的な存在だった分残念な気もしますが、逆に考えれば『真・女神転生』がベリアルとネビロスをより魅力的な存在に描いた現代の「グリモワール」となったとも言えるのではないでしょうか。

 さて、次回は連載最終回。発売直後回ということで、『真・女神転生DEEP STRANGE JOURNEY』で重要な役割を持って登場となった「デメテル」について掘り下げたいと思います。お楽しみに。


塩田信之(NOBUYUKI SHIODA)

故成沢大輔氏と共に「CB’s PROJECT」を立ち上げ、『真・女神転生のすべて』『デビルサマナー ソウルハッカーズのすべて』など、これまで数多くのメガテン関連の攻略本やファンブックに携わってきたフリーライター。近著は『真・女神転生IV FINAL 公式設定資料集+神話世界への旅』(一迅社)。

※ゲームに関する記述は取材と開発スタッフによる監修に基づいています。歴史・宗教観については諸説あり、ライター個人の解釈に基づいています。

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真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY

対応機種:ニンテンドー3DS
ジャンル:RPG
発売日:2017年10月26日
CERO年齢区分:C(15才以上対象)

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